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スポーツ肩膝 肩関節・スポーツ障害

肩関節・スポーツ障害

1) 肩関節脱臼

肩関節脱臼には大きく分けて二つのパターンがあります。ケガによる脱臼がくせになってくりかえすようになってしまった反復性肩関節脱臼と、特にケガはしていないけれど思春期頃から肩に不安定性を自覚するようになってそれがひどくなってしまった習慣性肩関節脱臼です。
反復性肩関節脱臼の受傷機転ははっきりしています。一回目の脱臼がどんな運動をしていてどのようにおこったのか、二回目、三回目はどうだったのか、現在に至るまで合計何回くらい脱臼しているかが基本的な情報となります。多くの場合、腕の骨の一番上の部分(上腕骨頭といいます)が関節から前下方に滑り落ちないように制動する靭帯が壊れているので、これを関節鏡手術で修復します。脱臼がまだ一回しか起こっていない場合には特殊な装具を3週間装用することで脱臼ぐせがつくことを防ごうとする治療法もありますが、二回以上脱臼がおこっているなら手術治療のほうが確実であると考えます。手術後3週間は装具で肩をリラックスさせます。その後比較的短期間で腕を挙げられるようになる場合が多いですが、スポーツなどの少々無理な体勢にも耐えられるようになるためにはリハビリテーションが欠かせません。およそ術後3ヶ月くらいから負荷がかけられるようになっていきます。習慣性肩関節脱臼は肩周囲の筋肉のバランスの崩れが非常に大きいことが多いです。したがって、手術治療が必要になることもありますが、まずリハビリテーションをしっかりと行うことが必須となります。

関節鏡視下バンカート修復術


関節唇が臼蓋縁(左側の白い組織)より 剥れている

吸収性のアンカーを用いて修復

2) 投球障害肩

野球のピッチングやテニスのサーブなど、スローイング動作全般で肩に痛みが生じている状態を包括的に投球障害肩と呼びます。スローイング動作そのものは極めて精緻なものです。例えば野球のピッチャーが140km/hrのボールを投げるのに必要なエネルギーを肩から先の上肢だけで生み出そうとしてもまったく無理な相談です。下肢が踏み出されて胴体がねじれ、最後に腕がしなるように振り出されます。これら下肢から上肢にかけての運動が順番に目的に適った方向に行われて初めてエネルギーが伝達され、上肢末端である手を加速することができます。したがって、投球障害肩を考える上ではこのように下肢から上肢にエネルギーが伝達できるコンディションにあるかどうかが非常に重要になります。コンディションが崩れているのに無理にパフォーマンスを追及するあまり、特定の部分に負担が集中して痛みをきたす、というパターンが非常に多いのです。実際、投球障害肩の患者さんのほぼ100%に胴体、あるいは股関節など肩以外の問題が見られます。繰り返して練習をしたがために特定の筋肉に疲労がたまって伸び縮みしにくくなり、非常に偏った動きしかできないような状態にあることが極めて多いのです。わたしたちが肩以外の体の部分の動きをチェックする理由がここにあります。したがって治療は、肩だけでなく障害が隠れている身体各所の動きやバランスを取り戻すリハビリが中心になります。ほとんどの患者さんはこういったコンディションを取り戻すエクササイズと適切な運動量の調節で競技に復帰できます。大きな上方関節唇損傷がある場合など、どうしても手術が必要となることもありますが、そういうケースは投球障害肩全体の5%以下といわれています。

3) 肩腱板断裂

肩より上に手を上げ続けた作業がどうも疲れやすい、あるいはある特定の角度に腕が来たときに痛みが走る、そんな症状をお持ちの方は肩腱板断裂ではないかと検討してみる必要があります。腱板は肩甲骨から上腕骨へ伸びる4つの筋肉が合してできる組織で、運動中に上腕骨頭を肩関節の中で安定化させる重要な働きがあります。したがって、この働きが悪いと肩の運動が不安定になりがちで上記のような疲れやすさを生じます。また、腱板が破れてできた断端が引っかかったときには鋭い痛みを出しますので、ある特定の引っかかる角度に腕を持っていくと痛い(逆にいうと、腕を下ろした状態での作業など引っかからない運動なら痛くない)、という現象を引き起こします。治療は原則的にはまずリハビリによって、切れないで残っている部分を鍛えて疲れにくくできないか、あるいは引っかかりのない動きを習得できないかを試します。痛みが著しいときには肩への注射が有効であることがあります。どうしても力が入りにくい、あるいは引っ掛かりによる痛みが取れない、という場合には手術を考慮します。とてつもなく大きな腱板断裂でない限り、関節鏡を用いて腱板縫合術を行うことができます。これは肩周囲に長さ約8mmの傷を数箇所あけ、そこから関節鏡や特殊な器械を差し込んで手術を行うというものです。手術後は4~6週間装具を装着していただきます。手術翌日からリハビリを行い、肩周囲の無駄な緊張を取り、よい動きができるためのコンディション作りをします。術後3ヶ月くらいから徐々にものを持つことができるようになります。ある程度肩が使えるようになるまでに6か月以上の期間が必要です。

関節鏡視下腱板断裂手術

 

4) 肩関節拘縮(いわゆる五十肩)

「五十肩」という名前は多くの方に聞き覚えがあると思いますが、いったい五十肩とは何のことでしょうか。五十肩の定義はいろいろあって一概には言えないのですが、肩関節拘縮と同義であるとすると誤解が少ないと思います。それでは肩関節拘縮とは何かということになりますが、それはあらゆる方向への可動範囲が狭まっている状態、ということができます。1)で述べた腱板断裂は特定の角度で痛みを出して動きにくくなる状態ですから、この点で腱板断裂と肩関節拘縮(五十肩)は区別されることになります。
一般に肩関節拘縮は三つの病期に分けられます。最初はじっとしていても痛みが続いて夜寝られないくらいの時期です。しばらくするとその時期が終わって、それほど痛くはないけれど動きの範囲が著しく制限される時期に入ります。この期間が長い人なら年単位で続きます。その後徐々に肩の動く範囲が広がっていく時期に入ります。
治療は、痛みがひどい時期にはまず、「動かないけれどもそんなには痛くない時期」に早く移行できるようにすることを考えます。具体的には肩に注射をして炎症を抑えることが効果的です。夜眠れない場合は痛みに対して過度に敏感になってしまうことがあるので一時的に睡眠薬を使用することも検討します。その後「動かないけれどもそんなには痛くない時期」に入れば動きを習得するためのリハビリを行います。こうして少しずつでも着実に快方に向かわれる方が多いのですが、ときにリハビリの効果が現れにくい方がおられます。その場合には関節鏡を用いた手術で肩の関節を包んでいる袋を切ってしまい、動くスペースを作ることがあります。その後やはりリハビリを積極的に行い、肩を動かすこつを覚えていきます。

5) 肩関節の関節症

1)~4)までは靭帯や関節唇、腱板といった関節面の周囲に問題があり、手術もこれらに対して行われていました。しかし関節面を覆う軟骨やそれを裏打ちする骨が傷んでしまった場合には、これら関節面を構成する要素に介入せざるを得ないことがあります。

右の図は正常肩レントゲン写真から作成した模式図です。肋骨の後ろに肩甲骨がありますが、肩甲骨には外側に張り出した部分が2つあります。1つは関節窩であり上腕骨頭と関節面を形成しています。もう1つは関節の屋根のような部分に相当する肩峰です。関節面での接触が安定するように肩甲骨から筋肉が伸び出して腱板を構成し、上腕骨の大結節という隆起に付着しています。関節窩と上腕骨頭の関節面は軟骨に覆われているため滑らかで、平行な曲線を描いています。

しかしたとえば、下図左のような状態ではどうでしょうか。 
腱板は残存していますが、関節面の滑らかさが失われて上腕骨頭と関節窩の骨組織がダイレクトに接しているような状態(黄色矢頭)です。いわゆる「軟骨がすり減ってしまった状態」といえます。また関節周囲に骨棘と言われる余剰骨(橙星印)が生じています。これらは肩の変形性関節症に典型的な所見であり、関節面の滑らかさが失われていることが根本的な問題と考えられます。痛みや腕の動く範囲の制限がどうしても厳しい場合には、人工肩関節で関節面を再建します(下図右)。具体的には、関節窩側はポリエチレンで、上腕骨頭側は金属で、関節面を作り直します。

また、さらに下図左のような状態ではどうでしょうか。

腱板の大結節との連続性は失われ、関節窩レベルまで退縮してしまっています(赤矢印)。大結節・肩峰間に介在していた腱板がなくなったので上腕骨が上方へずれ上がって肩峰と衝突するようになり(黄色矢頭)、関節面の適合性は失われてしまいました(黒矢印)。大きな骨棘(橙星印)が肩峰に生じており、大結節と肩峰をゴリゴリこすりながら腕を挙上するため大結節が丸くすり減っています(赤かっこ)。これは腱板広範囲断裂に続発して関節症を来した例に典型的な所見です。腱板の断裂範囲が大きすぎるので3)の腱板断裂手術は不可能です。腱板が無ければ関節窩・上腕骨頭間での関節面は維持できません。このため、腱板が無くてもくるくる動く面が維持されるような、全く新しい構造を構築する必要があります。このような場合のために現在では反転型人工肩関節(リバースショルダー)が適用されます(下図右)。